これからの獣医師に伝えたいこと~成城こばやし動物病院 院長 小林 元郎 先生~

成城こばやし動物病院
東京都獣医師会 副会長
院長 小林 元郎 先生

●プロフィール 

1986年 北里大学獣医畜産学部獣医学科卒業

1990年~1991年 New York州Animal Medical Centerにて研修

1993年 成城こばやし動物病院 開業

働く上で大事にしている言葉
『奉公人根性なきこと』

 

●グローバルな視点をもつ

若い獣医師のみなさんにはぜひ自身が世界で活躍することを強くイメージしてほしいです。獣医学生の場合は、「初手から世界基準」、つまり卒業したらすぐに世界を舞台に働けるようイメージして学生生活を送って欲しいと考えています。われわれ小動物臨床獣医師は獣医療の技術や知識を伸ばすことに注力しがちです。もちろんそれはそれで重要なことなのですが、臨床の現場は日々飼い主さんと接している場所であり、人と人との接点が多い仕事です。人を相手としている以上、世の中の流れを知るために情報を収集し、時間を割くことはとても大切な事です。

もし今、自分がもう一度大学に入って勉強できるならば社会学の勉強をしたいですね。

現在私は自身の動物病院の仕事の他に(公社)東京都獣医師会という組織の運営責任を取る立場にあります。公衆衛生、畜産、小動物臨床各分野における獣医師の社会的責務、地位向上等、その他諸々の案件を担当しています。当然のことながら行政、政治家、企業の方々と日々折衝を繰り返しているわけですが、そこには社会情勢に対する広い見識が求められます。組織の任務を全うするためにもぜひ身につけたい学問です。

このことは一見日常の診療にまったく関係ないことと思われるかもしれませんが、病院を経営する立場として必要不可欠な能力であると確信しています。

そしてすでに日本の社会はものすごい勢いでグローバル化に向かっていることは皆さんご存知だと思います。身近なところだとコンビニや飲食店の店員は、都心ではほぼ2〜3割ぐらいが外国人の方ではないでしょうか。この風潮は加速度的に進んでいくと思いますし、獣医療も例外ではありません。狭い日本の中だけではなく世界に目を向け、世界で通用する獣医師になることを強く意識してほしいと思います。

●マルチタスクをこなす能力

私が大学を卒業した当初はプロ野球の野村監督の言葉『生涯一捕手』という考えがもてはやされていました。今はどうでしょう?確かに単一の優れた能力は大切ですがそれだけではとても安心できないですよね。いくつかの能力を持ちその組み合わせで多様な場面に対処して行くことがとても大切になる時代についに突入しました。

つまり獣医療でも今後マルチタスクの能力が求められる事は明らかです。

スマートフォンが代表的な例です。単一な作業に特化したガラケーと違って多種多様なアプリを使いこなすことによりさまざまなシーンに対応できるように日々進化してますよね。今後、誰しも一つの能力だけで生きていくというのは難しいかもしません。野球でいえば二刀流といわれる大谷選手のような、打撃も投手も両方できるような能力が求められる時代になっていくと思います。特に世の中はこれからAIの時代です。そこに対する自分の考え方や理解がないと時代から取り残され、さらに大きなチャンスも逃す事になるかもしれません。私もどのようにAIが診療やビジネスに組み込めるか今猛勉強中ですが、これについてはぜひ、若い人たちも全力で取り組んでいってほしいと考えています。

●自分のキャリアをイメージする

自分の人生のピークをイメージしておくことも重要だと思います。何をもってピークとするかは人によって違うと思います。

ちなみに私の場合、キャリアや収入面のピークを71歳で迎えられれば良いなとイメージしています(笑)。やりたいことを達成するのには時間がかかると思います。臨床現場だと一人前になるには10年は最低かかるのではないでしょうか。そのため20代、30代のうちにピークをつくることはとても難しいことだと思います。

キャリアのために学生のうちにしておくことは、とにかく一つの場所にとどまらず、世界に目を向けて色々な場所に足を踏み入れ、多種多様な人と交流する場所をもち、自分の進む業界を俯瞰できるようになっておくことが大切だと思います。

●イノベーティブな発想が業界の未来を明るくする

現在小動物医療の業界はペットの飼育率の低下、飼育希望率の低下など業界規模縮小ムードが蔓延しあまり明るい話題がありません。しかしながら、視点を変えてみると、実はまだまだ出来ていないことが沢山あり、世の中の役に立つ獣医師の潜在的な仕事は沢山あると思っています。

例えば当院では今後の診療の柱を以下の3つと考え、飼主さんのニーズに応えて行こうと考えています。

①予防健診
②往診
③遠隔診療

この3つの診療分野は動物病院の設備投資や規模にとらわれることなく行うことができ、ニーズが高く効率のいい仕事だと考えています。
また、診療科目についても同様で、従来の内科や外科だけでなく針灸などの東洋医学、漢方、病気に立ち向かうような栄養学などもニーズが高いけれども、あまり臨床現場では実践されていない分野だと思います。

従来の発想では業界は低迷したままとなるでしょう。イノベーティブな発想で飼い主さんのニーズを拾い上げて、ビジネスにしていけば価値ある獣医療を作りあげることがまだまだ十分可能です。

●業界の人材不足の解決策

もう一つ今業界で深刻な問題は人材不足です。経営者側と求職者側のミスマッチがこの人員不足の原因だと思っており、どちらか一方に原因があるというわけではありません。例えば経営者側は求職者に対して魅力的な職場を提案できているでしょうか?労働基準法をきちんと遵守し、福利厚生などもきちんとしているのか?また、きちんとしたキャリアパスを提示できているでしょうか?スタッフが5年後、10年後にどれだけキャリアアップできるかをきちんと示せなければ職場に不安が蔓延してしまいますよね。スタッフがこの職場で何が習得できてどのように幸せになって行くかのイメージが持てないと離職率は決して改善しないと思います。

また、求職者のみなさんも自分は何ができて職場にどんなメリットをもたらすことができるのか、明確に説明できなければいけないと思います。

説明できない場合はただいま勉強中と言うことで、ある一定の雇用条件の中でがんばるしかありませんね。自分は今勉強中なのかプロとして十分活躍できるのかをはっきり示してくれれば就職に関するミスマッチも大きく軽減されると思います。


●女性獣医師のこれからの働き方

結婚出産等で一度仕事を辞めた女性獣医師は小動物臨床に復帰しにくいという話をよく聞きますが、現在は昔に比べてだんぜんそのような女性たちが働ける場所があると思っています。当院でこれから進めようとしている予防健診・往診・遠隔診療については、そうした女性獣医師にとってまさに最適だと考えています。疾患診療と違って診療時間がコントロールしやすいという点と、特別な技術や設備などが必要ないからです。画像診断も今後は自宅のパソコンで診断可能になるでしょう。それだけを単独のビジネスにすることは難しいと思いますが、ある程度拠点となる病院に所属するのが良いでしょう。

この記事を読んで当院に多くの女性獣医師が問い合わせてくれるととても嬉しいですね(笑)

ブランクがある女性獣医師は、自分の技量を明確に提示し、自分自身をプロデュースして価値を高めていって欲しいと思います。そのような方々に対する潜在的需要は沢山あると思います。決して受け身ではいけません。自分は何が出来てどのように働きたいのかをしっかりと交渉すべきです。そこの交渉が曖昧であるが故に現場ではミスマッチが起こっているといつも思っています。

世の中の流れを知って、自身をセルフプロデュースして行く、とても大切な事だと私は思います。

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