これからの獣医師の働き方~株式会社VDT 獣医師 豊田陽一 先生~

株式会社 VDT
代表取締役
豊田 陽一 先生

●プロフィール 

2012年3月 東京農工大学農学部獣医学科卒業

2012年4月-2014年6月

動物病院で臨床獣医師として勤務

2014年8月~ 株式会社 VDTを起業

2017年9月~ 名古屋商科大学大学院入学

夢は『1人でも多くの人を笑顔にすること』

●VDTとは

 株式会社VDT(以下、VDT:https://www.vdt.co.jp/)は、獣医皮膚科・耳科を専門に扱う会社です。皮膚科診療や学術活動を行う獣医皮膚科医チームをVet Derm Tokyoと呼び、全国の提携動物病院にて皮膚科出張診療や教育活動を行っております。現在は獣医皮膚科医5名が所属しており、41病院と提携させて頂いております(2018年4月現在)。その他、細菌受託検査事業やセミナーなどの教育事業も行っています。

  • ●VDTを起業したきっかけは?

 創業メンバーは3人で、私以外の2人は現在も獣医皮膚科医として活躍している伊從と神田です。二人は私が東京農工大学で内科学研究室所属時代の院生で先輩でした。その当時から「動物病院業界で何か面白いことをしたいね」「業界を良くしたいね」という話をしていました。しかし、その時思いついたのは、『私が院長で皮膚科が充実した動物病院』といったレベルの話だったと思います。
その後、特に具体的な行動を起こすこともなく、私は動物病院で勤務医として働き始めました。また、伊從と神田は大学院を卒業し、更には伊從がアジア獣医皮膚科専門医協会のレジデントになるなど、2人が獣医皮膚科医として生きていく事が決まりました。 その後再会した際に、2人がバイトとして行っていた『皮膚科出張診療』を『動物病院を作らない新しい働き方』として事業に出来ないかと話になりました。そこで「会社を作るなら経営者が必要だよね。信頼出来る経営者を見つけるより、信頼出来る人が経営者になる方が良いね。」という話から、私が社長をする案が浮上しました。臨床獣医師を天職だと感じていたので最初は悩みましたが、「1人でも多くの人を笑顔にしたい」という私の夢に近づける挑戦になると直感し、起業、そして経営者として歩んでいく事を決断しました。

●起業後はどうなりましたか?

最初の計画通り、出張診察をする会社を作りました。起業前は皆で「2人の獣医皮膚科医が1日数万円稼いで、週5日働けば十分にやっていけるよね!」という話をしていましたが、いざ始めてみると、出張診察は移動が多く肉体的に厳しい事、そして契約病院を見つけるのが大変だという事から、出張診察は週2~3日が限度だということが分かりました。あっという間に事業計画の売上が半分になった事が衝撃的で、今でも覚えております(笑)。

それまで私は芸能人のマネージャーのような仕事をしていたのですが、新規事業を創出せねばならなくなりました。これまで血液とホルモンの流ればかり勉強してきて、ヒト・モノ・金・情報の流れを意識した事がなかったので、とても焦った事を覚えています。そこで、2人の獣医皮膚科医が「満足出来る細菌検査がない!」と言っていた事を思い出し、とりあえず自分でやってみる事にしました。『ブドウ球菌のPCR同定と感受性試験を提供する検査』だったのですが、大学の卒業研究で何千回とやっていたので、すぐにサービス提供を開始する事が出来ました。今では『細菌検査全般』を行っており、サービス開始から4年経った今では、多くの動物病院にお使い頂けるようになりました。獣医業界では抗菌薬の正しい使い方や、細菌検査への理解がまだまだ浸透しておらず、耐性菌の年々増え続けてしまっているように感じます。抗菌薬を正しい方法で処方しなくても、運良く目の前の患者を救えるかもしれませんが、未来の患者を確実に苦しめてしまいます。この事業を現場の先生方が使いやすくなるよう日々ブラッシュアップしていく事で、耐性菌問題にアプローチしていきたいと思っております。また、その他事業として、セミナー/執筆といった教育活動や企業コンサル、臨床研究などを行っております。

●出張専門診察についての考えは?

動物病院が飽和状態なのは分かっているので、動物病院がなくても獣医師が輝いて診療が出来る方法を模索する事が重要だと思っています。また、私は勤務医時代に「全ての科を勉強するには時間が全く足りない。苦手な科は得意な人にお願いしたい!」と思っていたので、得意な科だけを専門的に診察する獣医師の出現は獣医師にとっても心強いのではないかと考えています。また、この時の原体験を形にしたのが、『いろはシリーズ:http://04sky.skyers.jp/iroha/』(株式会社インターズー)というセミナーシリーズです。獣医療は受験勉強と異なり、『苦手を得意で埋める事が出来ない』と思っています。飼主と動物の運命が、誰に診てもらうかの『運』に左右される可能性を減らした方が良いと思うからです。そのため『苦手を無くすためのセミナーシリーズ』を株式会社インターズーの中で運営しています。『出張診察』と『いろはシリーズ』の2つで、獣医療の効率化を図りたいなと考えております。

飼い主の『少し高いお金を払ってでも愛犬愛猫に良い診察を受けさせてあげたい』という需要を満たす事も重要な事だと考えています。これは地方での診察において特に感じます。皮膚科専門診察も都市部でこそ珍しい事ではなくなってきましたが、地方だとまだまだ不足している印象です。これは皮膚科に限らずなのかもしれません。

また、獣医師が専門診察に特化できれば、学会発表や論文投稿といったレベルが高いアウトプットが可能になります。これは『未来の患者を救う』という意味でも重要な事だと思います。

更に、1つの動物病院で専門性が高い人を抱えると、人件費が高くなってしまう事に加え、日々の集患も大変になります。その為、出張診察のように幾つかの動物病院で雇う形になれば人件費的にも集患的にもベターだと思っています。これは現代っぽく言えば『専門医のシェアリングエコノミー』ですね。

●皮膚科と女性は相性がいい

今、4人常勤の獣医師のうち、3人が女性です。起業当初は「週2日働いて月25万円もらえる女性獣医師を10名にしたい!」と思ってました。この実現はまだ先になりそうですが、女性と皮膚科の相性はとても良いと思います。皮膚科で重要な事の1つに『聞く事』があり、女性の柔らかさは飼い主に安心感を与えるようです。また、私のようにせっかちな男性とは違い、優しく丁寧に診察を進めていける事も皮膚科と相性がよい理由の1つです。

●経営者になることを目指していたのですか?

いえ、たまたまです(笑)。伊從が「やってみては?」ときっかけをくれたのでやってみただけなのですが、今では天職だと思っているので伊從には感謝しています。

よく聞かれるのですが、決して臨床獣医師が嫌になった訳ではありません。私は卒業してから2年3ヵ月は御殿場の動物病院で勤務医をしていましたが、臨床の仕事はとてもやりがいがあり、これも天職だと思っていました(笑)。飼い主さんと泣いたり笑ったり感情を共有して、涙ながらに握手を求められる事もある、こんなに魂が揺さぶられるやりがいのある仕事は滅多にないと思います。また、1年目から年配の女性に受けが良かった事もあり、「動物病院を開業したら上手くいきそうだな」なんていう安直な想いを持っていました(笑)。それと同時に「1人でも多くの人を笑顔にしたい」という自分の夢の終着点が見えてきてしまったようにも思えました。「将来笑顔に出来るのは何人くらいかな」という計算が自分の中でぼんやりと出来るようになってきたのです。また、私より優秀な先輩や同期、後輩が将来に不安を抱えている現状や、獣医師や動物看護師の離職率の高さも気になるようになりました。

そんな時に、経営者になるかどうかの話が出てきたので、『業界をもっと良くする事で、より多くの人を笑顔に出来るかもしれない』と思い、経営者になる道を選択しました。つまり、『動物病院業界を救う獣医師になろう!』と決めたのです。 勿論、現場を離れた今も、臨床獣医師や動物看護師、全ての関係者の方々への尊敬の念でいっぱいです。

●MBAを取ろうと思った理由

会社を大きくするだけであれば、今のままでも良いと思っています。しかし、起業して3年目に、今の事業の延長線上に『動物病院業界を救う』という夢の達成はないな、と思いました。業界の雇用の受け皿が動物病院だからです。いつか私に子供ができて、「動物病院の先生になりたい!」と言われたら顔が曇ってしまうかもしれません。獣医師が素晴らしい職業である事に間違いはありませんが、今は心からオススメ出来る業界でないように思うからです。けど、自分の職業を自慢出来ないお父さんって少し哀しいじゃないですか。

株式会社VDTのビジネスはあくまでもソフトウェアであり、ハードウェアはいつの時代も動物病院です。最大の雇用の受け皿である動物病院の在り方が、今後より一層重要になります。そこで必要になるのは、『行き当たりばったりで何とかしていく能力ではなく、しっかりとした経営力』であると思いました。その為、MBAで経営学を学び、業界を良くしていくための力になりたいと思っています。 それに自分なりにやるだけやったのなら、万が一業界が良くならなくても、「お父さん頑張ったんだけど、ダメだった!ごめん!」って言えるかなって(笑)。

●日本一従業員満足度が高い動物病院をつくる

今の私の夢は、『日本一従業員満足度が高い動物病院』を作ることです。もうやると決めたのでここで宣言しておきます。ただ、これは本当にやらないといけないことだと思います。

日本一の手術件数、日本一の売上の動物病院はなんとなくイメージがつくと思います。しかし、日本一従業員満足度の高い動物病院というのはピンとこないのではないでしょうか。

従業員満足度というのはこれまで可視化されてこず、あまり重要視されていなかったからかもしれません。

この10年で犬の飼育頭数が約300万頭(約1,200万→900万)減っていっているのに関わらず、動物病院の数は約2000(約9,000→11,000)増えています。この傾向から動物病院業界全体としての収入が減り、支出(テナント代、リース代等)が増えていく事が予想され、業界に残るお金は少なくなってしまいます。単純な話、これでは業界の人件費を上げる事が難しくなってしまいます。

動物病院が増え続けてしまう理由の1つに、経営の問題があると思います。獣医師の終身雇用が少なく、労働環境が良いとも言えない業界である為、30代~40代頃に『開業をするかどうか』という選択肢に迫られてしまうように思います。(勿論、開業の夢を叶える事は素晴らしいと思っています。)

極論を言えば、労働環境が良くて安心して仕事を続けられる動物病院が増えれば、動物病院の数が減って、無駄な支出が業界から減って、その分、人や資源を集約する事が出来て、より良い獣医療を提供する事が出来て、給与も上がると思います。今は極論のように聞こえるかもしれませんが、このことを10年後の当たり前にしていきたいと思っています。 2017年、『従業員のエンゲージメントスコアが高い企業は、売上/利益が伸びる』という研究が国内で発表されました。政府主導の働き方改革が推進されているように、動物病院業界における働き方も見直すタイミングなのではないでしょうか。

これが私の『日本一従業員満足度が高い動物病院』を作りたい理由です。私は従業員を満足させる事に専念して、従業員は動物/飼い主を満足させる事に専念する。そんな動物病院が良いな、と考えています。

●経営をしてみて感じたこと

最初は経営者として動物と飼い主を笑顔にしたいと思ったのですが、経営者が笑顔にできるのは仲間である従業員だけなんじゃないかと思うようになりました。『動物と飼主を幸せにしよう!』というのは簡単ですが、それを実行する従業員は誰に幸せにして貰えばよいのでしょうか。一緒に働いてくれている仲間を幸せにすることで、その延長として動物や飼い主が幸せになってくれたら良いな、と思っています。「生まれ変わっても株式会社VDTで働きたい」って言ってもらえるくらい楽しくてやりがいのあるハッピーな会社にしていきたいと思っています。

●今後の夢

全ての獣医系大学で授業をする事が夢の1つです。獣医学生は経営や経済について学ぶ機会に乏しいので、社会に出る前に経営学について学べる機会を提供したいと思っています。そして、動物病院業界に進む学生が、「従業員満足度が高い動物病院に勤務したい」と言ってくれたら最高です。

「最近の獣医学生は元気がない。夢がない。」と聞く事が多くなりましたが、これは学生だけの問題でしょうか。私は、『大人の仕事は自分より若い世代に夢や希望を与える事』だと思っています。もし本当に学生が夢や希望を持てていないのであれば、自分事としてこの問題に取り組んでいこうと思います。耐性菌問題も学生問題も、上の世代から下の世代に引き継がれていく問題だと思うので、自分の世代でストップさせたいと思っています。

あとは、10年前から獣医師の友人と『ゴールデンレトリーマン』という漫才コンビを組んでおります。2年連続M-1グランプリ2回戦進出したので、3回戦進出する事も夢の1つです(笑)。もし夢や希望が持てずに笑えない学生がいたら、お笑いとビジネスの力をフル活用して必ず笑わせるので、1人で悩まず是非声を掛けて欲しいなと思います。

日本一従業員満足度が高い動物病院はどうやったら作れるのか日々考えているので、興味がある方は是非ご連絡下さい!

『早く行きたければ1人で行け 遠くまで行きたければ皆で行け』

皆で素晴らしい業界を作っていきましょう!

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