ストレス原因1位は人間関係。動物病院でのより良い働き方とは

どうぶつ業界のみならず多くの職場でメンタルヘルスが注目されている中、動物病院における職場環境や雇用問題は今後さらに重要視されることが予想されます。

今回、どうぶつ関連業従事者向けのセミナーや勉強会を開催されているHAAC様(http://haac-edu.good.cx/)と動物病院でのより良い働き方について意見交換会を行いました。

◆HAAC-Education(以下HAAC)メンバー◆

代表者:稲本 有香
日本語・人類学講師として15年間米国からの留学生の指導に務めた後、死生学、グリーフ・スタディ、キャリア・カウンセリングなどについて学ぶ。現在グリーフケアの啓発およびキャリア教育の普及に関わる活動に従事。グリーフカウンセラー、キャリアデ・ベロップメント・アドバイザー(CDA)、1級ペットカウンセラー、1級ターミナルケアリスト等、多くのカウンセリング資格を持つ。

先崎 直子 先生
先生現在も臨床現場で活躍される一方、獣医師の知識と経験から学んだ、病院内のコミュニケーション心理に携わっている。現在はどうぶつ関連業における従業者やリーダー向けのセミナーを開催している。獣医師資格のほか、1級ペットカウンセラー、1級ターミナルケアリスト、メンタルヘルス・カウンセラーの資格を持つ。

宮下 ひろこ 先生
獣医大学卒業後、小動物臨床に従事する。現在は、ペットオーナーと病院スタッフとの橋渡しの役割を担う動物病院専任カウンセラーとして、動物病院に勤務。培ってきた臨床経験を活かし、動物病院スタッフの人材育成や医療面接指導、飼い主様対応コミュニケーション、ターミナル期・ペットロスの相談に携わっている。獣医師資格のほか、1級ペットカウンセラー、1級ターミナルケアリスト、産業カウンセラーの資格を持つ。

◆アニジョブメンバー◆

獣医師 宮下 めぐみ
獣医大学卒業後、育児と小動物臨床に携わりその後アニコムへ入社。過去の経験から女性獣医師支援を目標として、アニジョブ立ち上げに関わる。

横田 友子
アニコム入社後、支払部門で動物病院さんをサポートする。現在はアニジョブ運営をメインで担当し、求職者、求人企業に寄り添う接客を日々行っている。

獣医師 山本 美香
獣医大学卒業後、家畜保健所や小動物臨床の業務経験があり、心理の勉強をして心理士の資格を取得。アニコム入社後、アンダーライティング部門を経て心理士の資格も生かせる人材紹介業であるアニジョブ運営に携わる。

より良い働き方をするための雇用条件

宮下:今回、意見交換会の機会を頂きありがとうございます。より良い働き方というテーマで会を進めさせていただきます。

稲本:より良い働き方というと雇用条件も大事な要素になってくると思いますが、若い世代の求職者は以前よりも、雇用条件に対する考え方がシビアになっていると感じます。希望どおりの条件にあう求人企業はなかなかないのではないかと思います。アニジョブさんではマッチングの際にその辺をどのように対応されていますか?

横田:まずは平均的なお給料等の条件を求職者にお伝えした上で、なるべくご希望に近いところを紹介させていただいています。

山本:あるいは別の+αの要素、例えばスキルアップや経験の場等に目を向けていただけるようにする場合もあります。

横田:時には、求人企業と求職者の間に直接事務局が立つことで、無理なくお互いを知っていただけるよう努めています。

宮下め:やはり、求職者は院長先生には畏れ多くて交渉事が言えないこともありますので、事務局がメールやお電話で代行という形で確認をさせ頂くこともあります。こうした代行のニーズは多くあるのではないかと思います。動物病院の雇用に際して雇用条件について口頭のみの約束の場合も今までは多く、働き始めてから求職者が戸惑うことも多かったのが今までの現実でした。そこでアニジョブが雇用条件の見える化を推進することで、働きやすい環境の向上や条件の標準化に繋がればいいなと思っています。

仕事と子育ての両立問題

先崎:動物病院での臨床経験ある方であれば経験されている方が多いとは思いますが、業務面では拘束時間が長いことが子育てとの両立の難しさにつながっていると思います。急患や入院管理等で終業時刻に帰宅することが難しい場合もあり、スタッフ数が少ないと子どもが急に体調不良になっても休みづらいという現状があります。特に女性の場合、そうした場面に遭遇することが多いですが、まだまだ病院側の理解も得づらい場合が多いため、仕事と子育てとの両立が企業や他の業界よりも難しいのかなと感じています。しかし、現在は獣医学生の半数以上が女性であり、雇用条件の厳しさなどから臨床を希望する学生が減少している昨今の就職事情を鑑みると、女性が結婚・出産しても働ける環境整備が必要になってきているのかなと思います。

宮下め:仕事と子育てが両立できる環境整備は、アニジョブとしても求人企業側に積極的に進めていただくことを推奨しています。これは女性だけに限らず、どうぶつ業界全体の問題ですからね。

だれもが悩む人間関係!

稲本:メンタルヘルスセミナーなどで動物病院のスタッフと関わるようになり、最も驚いたことは悩みの原因の多くがスタッフ間の人間関係だったことです。

宮下め:院長先生との人間関係が1番多いのですか?

宮下ひ:スタッフの人数が小さい病院の場合、関係が密接な院長先生との人間関係の悩みが多く、人数が多い病院の場合は獣医師同士や動物看護師同士などスタッフ間の人間関係の悩みが多いように感じます。

先崎:院長先生方のなかには若いスタッフとの関係性の築き方や教育方法で悩んでいらっしゃる先生が多いように感じます。

稲本:一般企業の中間管理職の方が新入社員への接し方で悩んでいた時代がありましたが、まさにどうぶつ業界がその時代に突入しているのかもしれないですね。

先崎:一方、院長先生方の中には世代の違うスタッフに対して「なぜ、若い人に気を使わないといけないの?」という方もいるため、より良い職場にしていくためには、スタッフだけでなく院長先生たちも意識改革が必要な場合もあるかもしませんね。

世代を超えたコミュニケーションの難しさ

宮下ひ:特に若い世代のスタッフの場合、経験もスキルもない状態で待遇や仕事内容など、個人の権利のみを主張するような場合は、自ら働く環境を悪くしている印象があります。お互いに勤務してくれて有難い、働かせてもらえる場所があってありがたいという感謝の気持ちを交換できることがよい職場環境につながると思います。また、長期勤務の方が辞めてしまうと、今まで院長先生とスタッフの橋渡しの役割を担っていた人がいなくなるため、そのギャップがさらに大きくなり、コミュニケーション崩壊につながるようです。

山本:コミュニケーションの問題については少子化時代の影響もあるではないかと思います。兄弟も少なく、友人と遊ぶ機会が減っている社会事情では、人間関係を学ぶ機会も少なく、問題場面の経験も少ないため、人間関係を構築するスキルが不足しがちなのかなと思います。

稲本:世代間ギャップによる人間関係の悩みは確実に増えていると感じます。時代の変化に応じたメンタルのサポートが必要ですよね。

人間関係の悩みに対処法はあるの?

宮下め:人間関係の悩みはアニコムのような企業でも多々ありますが、企業の場合、通報ラインの存在や多くの人間が一緒に働いていて共感しあえるため、動物病院に比べ悩みが蓄積されづらいのかなと思います。一方、動物病院の場合、人間関係が固定されてしまうため、企業以上に人間関係の悩みは深刻なのでしょうね。HAACさんが感じている対処法等があれば教えて頂きたいです。

宮下ひ:私が個人面談を通じて感じたことは、悩みがある方が第3者である相談者に話をしてガス抜きすることで悩みが収まるケースと、雇用者側に職場環境改善の実行を求めるケースの2つに大別できます。大切な人材が離職などになる前に、小さなレベルでの悩みを第3者が介入し、吸い上げてあげることは重要だと思います。

先崎:また、HAACではそうした個別対応と同時にストレス対処法を知識として伝えるセミナーなどを行っており、他の病院の方と交流する機会にもなっています。

稲本:実際にセミナー受講者からは「他の病院の人と交流し、意見交換や情報を共有できたことが良かった」との感想が多く出てきます。

宮下め:私も新卒時にそのような経験がありますが、他の病院の状況を知らないと全て自分が悪いと思い込みがちですよね。他の病院の方と交流する機会があれば、同様の体験をしていたり共感できたりして自分だけが悪い場合ばかりではないことを知り、新しい気持ちで前に進めるのかなと思います。

現代の求職者世代の新たな課題

先崎:今、就職活動をする新しい世代は、割と慎重派が多く先が見えないとなかなか動けないという特徴があると感じています。その病院に勤めるとどういうことが学べるか、等の利点の見える化も必要だと思いました。

横田:アニジョブは一生勤務医をしたいと希望される方の受け皿がまだまだ少ないことが課題です。

宮下ひ:長く勤めている人にずっといてもらいたい気持ちはあるけれど、その人たちを維持していくためには、人件費を確保していく必要があり、経営上大変な現状があると思います。

先崎:企業病院のような大きな病院であれば対応できるかもしれないですけどね。また、逆にすぐにスタッフが辞めてしまい困っているという病院も多いようです。

宮下ひ:病院スタッフの傾向をみると大きく2つ分かれるのかなと思います。1つはやりがいを求めてずっと勤めたいというタイプと、生活のために家計を維持したい、プライベートを大切にしたいというタイプです。前者はやりがいを維持できれば雇用条件に関係なく、ずっと勤めていけます。逆にその病院でやりたいことができないなどメリットを見出せなくなるとスキルアップのため離職します。雇用条件や職場整備以外についても、スタッフの個々のニーズを満たす条件を病院側が準備しない限り、スタッフを維持・確保するのは難しい時代になっているのかなと思います。

 HACC様×アニジョブが今後やりたい事

山本:上司や先輩に言いづらいことも、他の動物病院の院長先生やマネージャークラスのスタッフさんであれば(利害関係もなく)本音で意見交換ができそれがストレス軽減やよりよく働くための参考につながると思います。立場が異なるスタッフの方々を対象にした意見交換会の開催等は、お互いの(職種の)立場を第3者として学ぶ良い機会になるかもしれませんね。

宮下め:横にも縦にもつながるような意見交換を含めたワークショップが開催できるといいですよね。

先崎:小規模で実施する動物病院スタッフのヒアリングなども他の病院の状況を知る良い機会になると思います。

宮下め:今後、一緒にどうぶつ業界で働くスタッフさんのために出来ることを、一つずつ、形にしていければいいですね。今後ともよろしくお願いいたします。

 

意見交換会を終えて

意見交換会を終え、動物病院をより良い職場にするためのいくつかのヒントがありました。

*雇用条件の見える化は働きやすい職場環境を広めていくことの糸口となる。

*動物病院スタッフの悩みの原因の多くが職場内の人間関係である。

*悩みは抱え込まず、第3者と共有する!その機会を多く作る!

どうぶつ業界にも時代に応じた職場環境づくりが求められていることを痛感しました。アニジョブもどうぶつ業界のより良い職場環境づくりのお手伝いをしていきたいです。

 

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