出産後に往診専門医を起業~動物往診+在宅ケアサービス  にくきゅう~

 

  • ●プロフィール

1998年  麻布大学獣医学科卒業、獣医師免許取得1998年~2017年 千葉、東京、埼玉の開業獣医師病院にて勤務医として働く
2009年 結婚
2012年 長男出産
2017年 往診専門の動物病院「動物往診+在宅ケアサービス にくきゅう」始動
現在もパート獣医師として病院に勤務しながら、往診獣医師として活動している

 

●往診専門のサービスを始めたきっかけは?
勤務医時代の経験ですが、飼っている動物を病院に連れて来ることができないという飼い主さんが多くいました。
理由は動物の病状などの場合もありますが、小さい赤ちゃんがいて連れて行くのが難しい、高齢で車の運転ができないなどの飼い主さんの事情も多かったです。
往診に対するニーズは増えてきているのに、くみ切れない事情があるとその時から感じていました。

また、実際に自分が出産して子供を授かった時に、動物と赤ちゃんを連れての通院は難しく、往診の必要性を実感しました。
動物病院を開業して往診することも考えましたが、その場合、人を雇わないと往診の間、病院は獣医師が不在となり、なかなかハードルが高いと思いました。
診療内容についても、「病院に通院不可」=「入院」というのは極端な事だと思います。
往診で対応可能な皮膚疾患や単純な内科疾患、慢性疾患で定期的に皮下補液などの診療は割と多いですからね。
プライベートでも出産後、フルタイムの勤務医を続ける難しさを感じ、勤務スタイルを変える必要があると思っていたことも契機となり、今年の春から勤務医と両立しながら往診専門の事業を開始しました。

●往診サービスをスタートしてからどんな事が大変ですか?
2017年4月から往診サービスを開始したのですが、集客については病院を構えていないため知名度がなく、口コミやHPだけでは限界があると感じています。
本当にニーズがあるところまで告知できていないのが現状ですね。往診は、重篤な患者などへの特別対応だ、と考えている飼い主さんが多いので、敷居が高くなっている部分もあると思います。
かかりつけの動物病院は別にあっても往診は利用するなど、往診を0.5次診療のようにとらえて利用してもらえるといいなと思っています。
その点では、周りの動物病院さんとも連携も大事だし、今後の課題となっています。

●起業してよかったことや今後進めていきたいことは?
納得がいくまで飼い主さんの話を、じっくり聴けるところがいいですね。
往診の場合、実際の飼育状況やフードの種類など生活環境をその場で確認できアドバイスをできるので、疾病発生の予防にもつながると思います。
実際の現場を確認することで、終末医療などのプラスアルファの提案をできるので、通院が選択肢にできない飼い主さんの一つの選択肢にしていただき、自宅で動物の看取りまでケアさせていただくことができればいいなと思います。
社会的な部分でいえば高齢者が多くなるなかで、定期的に訪問をするということは飼い主さんの見守りにもつながり、会話をすることで孤独の解消や、飼い主さんの健康にもつながることもあるかもしれません。人の医療は地域包括医療などで分業が発達していますが、獣医療はそこまでできていない地域がほとんどだと思います。往診サービスがコミュニティの一部となり、アドバイザー的な役割を担えるようになるといいと思います。
また、ひとりの獣医師がすべての動物種や夜間も診療することは不可能だと思うので、アドバイザー的な役割を介することで人の医療ように獣医療も連携できれば、飼い主さん達にも喜んでいただけると思います。

●起業してからの育児は変わりましたか?
往診の日は家にいる時間が多くなったので、家の仕事ができる時間は増えました。
ただ息子は、お母さんが今日は家にいるのになぜ保育園から早く帰れないの?ということがまだ理解できてなくて、その点はどうしようかなと思っています(笑)。
以前とくらべて息子とかかわる時間の長さはそれほど変わらないけれど、往診の日は自分だけの仕事なので子供と関わる時も気持ちの上で余裕ができたと思います。
今後も仕事とプライベートを完全に切り離すということではなく、子供連れで往診を行い、それが普通になるような仕事ができるようになるといいと思います。

●働く女性にメッセージを!
私は若いころ、子供を産んだ時の働き方を考えてなかったですが(笑)、働き方や結婚・出産の転換期の事もなるべくビジョンを持っていたほうがいいと思います。
人生の転機がやってきた時にどうするか、情報を収集してビジョンをもっていないと、自分の思うように動けなくなってしまいますからね。
獣医学生は約6割が女性ですし、小動物臨床は飼い主さんの話を聞き取る力や細やかさが必要とされるので、女性にとっては得意分野の仕事だと思います。その反面、労務状況を考えると、女性が働きやすい環境とは言えないので、私たちの世代はそれを改善していかないといけないと思います。
これから先、小動物臨床業界が今よりは悪くなることはないと思いますが、すぐにガラッとは変わらないので、まだ荒波に揉まれる覚悟は必要だと思います(笑)。
でも、やりがいはあるのでぜひ小動物臨床にきてほしいですね。

 

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